転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜
156 いろんな洗う魔法と、熱々のシロップ
「今回は魔道具じゃないから、魔石はいらないよね」
僕は取り合えず必要な物を頭に思い浮かべながら、資材箱から出した物を机の上に並べて行く。
お店で使ってたようなのを作るのは大変だろうけど、前の世界で子供の頃に使ってたようなものを作るだけならそれ程大変じゃないはずなんだよね。
僕はそう思いながらクリエイト魔法でまず本体を作り、その後底にカンナのような刃と削った氷が落ちる穴があいた器に氷を固定するためのちっちゃなトゲの付いた押さえ蓋、それと軸やハンドルを作っていく。
「あっ、蓋を押さえるバネはどうしよう? 普通の鉄で作ってもダメだろうしなぁ」
ちょっと悩んだけど、とりあえず銅製の重石で代用。
ハンドルを回すときにちょっと重くなっちゃうけど、そこは僕でも回せる程度の重さにすれば多分大丈夫だよね。
そして出来上がった部品をこれまたクリエイト魔法で繋げていけばカキ氷機の完成だ。
でも、まだこのままじゃ使えないんだ。だって食べ物を作る道具なんだから、使う前に洗わないといけないからね。
とは言っても別にお水や石鹸で洗う訳じゃないよ。僕にはこんな時に使える便利な魔法があるんだ。
その魔法っていうのは水魔法のウォッシュと光魔法のピュリファイ、それに一般魔法のクリーンの三つ。
とは言っても魔法使いが使うウォッシュはどっちかって言うと大きな像や何も無いお部屋の中を水で洗い流して綺麗にする魔法だし、神官が使うピュリファイは穢れた土地や濁った水を浄化して綺麗にする魔法だから、ここで使うのは一般魔法のクリーンなんだけどね。
因みにこの三つとも7レベルまでに使えるようになるから僕は全部使えるんだ。
でね、この三つの魔法の中で一番よく使うのは多分クリーンなんだろうけど、実は一番便利なのはピュリファイなんじゃないかなって僕は思ってるんだ。
だって何日間か前に汲んだ水や雨で濁った池から汲んだ水でも、これを使えば飲み水にできるくらい綺麗になるんだもん。
うちの村は中に川が流れてるし、それに井戸だってあるから今までに使った事は無いんだけど、他の村や街に長い間行かないといけない時があったらきっと役に立つと思うんだよね。
それにこの魔法の魔法陣が描けるようになれば大きな樽中に入れた水をこの魔法でずっと綺麗なままにできるから、そこから水道みたいなものをお家の中に引けるようになるんだよね。
前に泊まったことがあるイーノックカウの宿屋『若葉の風亭』はトイレが水洗だったけど、でもあれを水の魔石で作る水だけでやろうと思ったら、きっと物凄く魔道リキッドがいっぱいいると思うんだ。
だからホントにそうなのかは聞いてみないと解んないけど、『若葉の風亭』でも多分大きな入れ物の中に入れた水を、この魔法で綺麗にして使ってるんじゃないかなぁって僕は思ってるんだよね。
それなら水の魔石から水を作り出すより、かなり魔道リキッドが少なくすむもんね。
さて、クリーンで綺麗にしたと言う事で、早速それを持って台所へ。
「あら、ルディーン。丁度良かったわ。今から呼びに行こうと思っていたのよ」
そしたら丁度お肉を切る作業が終わったとこだったらしくて、お母さんとヒルダ姉ちゃんが包丁とかを洗っている間にレーア姉ちゃんが僕たちを呼びに行こうとしてたところだった。
でもここに来たのは僕だけだから、結局レーア姉ちゃんはキャリーナ姉ちゃんやスティナちゃんを呼びに行かないといけなかったんだけどね。
「それでルディーンは、どうしてここにいるのかな? それにその道具は何かしら? 新しい魔道具?」
「ううん、これは魔道具じゃないよ。あのね、自分の力で氷を削る道具なんだ」
レーア姉ちゃんを見送った後、お母さんにそれは何? って聞かれた僕は、これを何に使うかを教えてあげたんだ。
だけどお母さんは僕が教えてあげた事がよく解んなかったみたいなんだよね。
「氷を削るの? 切ったり細かく砕いたりするんじゃなくて?」
「うん、そうだよ」
だって僕に削るの? って聞き返したからそうだよって言ったのに、それでもよく解んないって顔して首を捻ってるんだもん。
でもわざわざ説明しなくても、レーア姉ちゃんがキャリーナ姉ちゃんたちを連れて来たらやって見せるんだから、今教えなくてもいいかって思ったんだ。
あっ、でもその前に。
「お母さん、これを使う前に作んないといけないものがあるんだ。ちょっと手伝って」
「えっ? ええ、いいわよ、何をするの?」
「えっとねぇ、僕が魔法でお砂糖を細かくするから、それをお鍋にちょっとの水と一緒に入れて溶かして欲しいんだ」
ホントは果実水にお砂糖を入れたものの方がおいしいかもしれないけど、どれくらいお砂糖を入れたらいいのか解んないし、ここで果実水を使っちゃったら後で焼肉の時の分がなくなっちゃうから今日はパス。
だから今日は、とりあえずお砂糖で作ったシロップをかけて食べようって僕は思ってるんだよね。
でも鉄板でパンケーキを作るのとは違って、お鍋を火にかけて中のものを溶かすって作業をすると、もしかしたらやけどしちゃうかもしれないから、やるって言ってもきっとお母さんは許してくれないと思うんだ。
だからそこだけはお母さんにやってもらおうって思ったんだ。
「お砂糖を溶かすの? いいけど、どれくらい作ったらいいのかしら?」
「そうだなぁ、みんなが食べるんだから、ちょっと多めに作んないといけないかも」
「そうなの。じゃあ結構な量のお砂糖がいるわね。ルディーン、悪いんだけど、魔石でお砂糖を作ってくれない?」
「うん、解った!」
お家にお砂糖はまだいっぱいあったと思うんだけど、お母さんがそう言うんだったら作んないとね。
と言う訳で、僕は作業部屋から米粒程度の魔石を持ってきて、創造魔法でそれをお砂糖を生み出した。
「ありがとう、ルディーン。それじゃあこのお鍋の中にお砂糖を入れるから細かくしてね」
でね、それを横で見てたお母さんは僕にそう言うと結構大きなお鍋に、なんとおさじでざぁざぁとお砂糖を入れ始めたんだ。
これを見て僕はびっくり。だってそんなにいっぱいシロップを作ろうなんて思ってなかったんだもん。
「お母さん、こんなにいっぱい作るの!?」
「あら、みんなで食べる物に使うんでしょ? ならこれくらいはいるじゃない」
だから僕は慌てて止めたんだけど、お母さんはこれくらいいるって言うんだ。
そうかなぁ? でもお母さんたちは甘い物が大好きだし、カキ氷にもシロップをいっぱいかけるかも知れないもんね。
そう思った僕は、お母さんが言う通り、おなべに入れたお砂糖を魔法で細かくしたんだ。
「ありがとう、ルディーン。それじゃあお母さんはこれを溶かせばいいのね?」
「うん。でも水はあんまり入れちゃダメだよ。後で上からかけるシロップなんだから、甘くないとダメだからね」
「解ったわ。任せておいて」
お母さんなら隣で見てなくてもお砂糖をしっかり溶かしてくれるだろうから、僕は安心してその場を任せて冷蔵庫の方へと移動。
そして扉を開けて一番上にある氷に入った銅製の器を取り出したんだ。
この氷を作る器は冷蔵庫の中を冷やすって意味もあって結構大きいんだよね。
だからこの氷だけでお母さんやお姉ちゃんたち、それに僕とスティナちゃんが食べるかき氷くらいなら作れると思うんだ。
と言う訳で器の中に水が入らないよう、慎重に周りを濡らして中の氷を取り出す。
そしてそれを別の器に入れたら、またその中にお水を入れて冷蔵庫の中へ戻しておいたんだ。
だってこうしておかないと、魔石の力だけで冷蔵庫を日やす事になるから魔道リキッドをいっぱい使う事になっちゃうからね。
でね、その後は取り出した氷を木のトンカチとクリーンの魔法で綺麗にしたノミでちょっと大き目の塊に砕いたら氷の準備は完了だ。
「お母さん。お砂糖、溶けた?」
「ええ、ちょっと焦げちゃったけど、これでいいのよね?」
だから僕はお母さんにシロップができてる? って聞いたんだけど、そしたらちょっとだけ茶色くなって香ばしいにおいがするシロップを僕に見せてくれたんだ。
そう、かなり量が多くて、熱々のシロップを。
……そう言えば火にかけて溶かすんだから熱いのは当たり前だよね。
その出来上がったシロップの量にも驚いたけど、僕はそれ以上にこんなに熱いシロップをかけたらカキ氷が全部溶けちゃうって事に気が付いて、それを冷やす前に氷を砕いちゃった事をちょっと後悔する事になったんだ。
ルディーン君はピュリファイを使って水洗トイレを実用化したと考えていますが、実はこれ、正しかったりします。
ただこの呪文はアンデッドを生み出す土地を浄化する為の魔法として広く知られており、この水槽に使われている魔法と同一の物である事は神殿が秘匿しています。
その為この水槽は神殿でしか製造していません。
ですから設置してもらうには多額の寄付をする必要があり、またその利便性から王宮や貴族邸などでも広く使われているので、この水槽は神殿の重要な収入源になっています。